nバック課題の効果と科学的根拠
執筆・調査: スタジオアージュ Web制作・調査担当 / 最終確認: / 編集方針
nバック課題は、画面に順番に出る刺激を見ながら「何個前と同じか」を判断するトレーニングです。 「本当に効果があるのか」「nバック課題は意味ないのでは」と気になる人も多いはずです。 結論からいうと、訓練した課題や近い課題への上達は期待できますが、IQや日常の能力まで大きく伸びると断言できる段階ではありません。
nバック課題で何が鍛えられるか
中心になるのはワーキングメモリです。ワーキングメモリとは、情報を一時的に覚えながら、その情報を使って考える力のことです。 たとえば暗算中に数字を覚える、会話の前半を保持しながら返答を考える、作業手順を頭の中で更新する場面で使われます。 nバック課題では、直近の刺激を覚えるだけでなく、新しい刺激が出るたびに記憶を入れ替え、不要になった情報を捨てる必要があります。 そのため、短期記憶だけでなく、注意のコントロールや情報更新の練習にもなります。
肯定的な研究:流動性知能との関連
nバック課題が注目された大きなきっかけは、Jaeggiらの2008年の研究です。 この研究では、デュアルnバックを一定期間トレーニングした参加者に、流動性知能テストの成績向上が見られたと報告されました。 流動性知能とは、知識量そのものではなく、初めて見る問題を推理し、規則を見つけて解く力に近い概念です。 この結果は「ワーキングメモリを鍛えることで、より広い思考力にもよい影響が出る可能性がある」と受け止められ、nback 効果への関心を高めました。
懐疑的な研究:転移効果はどこまであるか
一方で、その後の研究では慎重な見方も増えました。 Auらの2015年のメタ分析は、nバック訓練が流動性知能に小さいながら有意な効果を持つ可能性を示しつつ、効果の大きさや条件には注意が必要だと整理しています。 ここで重要なのは「近時転移」と「遠隔転移」の違いです。 近時転移は、nバックに似たワーキングメモリ課題が上達することです。これは比較的起こりやすいと考えられます。 遠隔転移は、学業成績、仕事の処理能力、一般的なIQのような離れた能力まで伸びることです。 こちらは研究結果が一致しにくく、効果があっても小さい、または測定方法に左右される可能性があります。
現時点での結論
nバック課題を「効果なし」と切り捨てるのは単純すぎます。 ただし、「毎日やれば誰でも頭が劇的によくなる」と期待するのも科学的ではありません。 現時点では、ワーキングメモリを使う練習としては有望で、課題成績や類似した認知課題には効果が出やすい一方、日常生活全体への大きな転移は限定的・継続研究中と見るのが妥当です。 短時間で集中して取り組み、正答率や難易度の変化を自分で確認する使い方が現実的です。
まずは実際に試してみる
nバック課題は、説明を読むだけでは感覚がつかみにくい課題です。 1-Backから始めて、慣れてきたら2-Back、3-Backへ進むと負荷の違いがわかります。 集中できる数分間を使い、無理に長時間続けず、スコアの変化を目安にしてください。
参考文献
- Jaeggi, S. M., Buschkuehl, M., Jonides, J., & Perrig, W. J. (2008). Improving fluid intelligence with training on working memory. PNAS, 105(19), 6829-6833. DOI
- Au, J., Sheehan, E., Tsai, N., Duncan, G. J., Buschkuehl, M., & Jaeggi, S. M. (2015). Improving fluid intelligence with training on working memory: A meta-analysis. Psychonomic Bulletin & Review, 22, 366-377. DOI
- Soveri, A., Antfolk, J., Karlsson, L., Salo, B., & Laine, M. (2017). Working memory training revisited: A multi-level meta-analysis of n-back training studies. Psychonomic Bulletin & Review, 24, 1077-1096. DOI